取締役会設置会社以外の会社(取締役会非設置会社)において定時株主総会でやるべきこと
会社法296条1項では、「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。」と定められており、事業年度の期間は1年と定めている会社がほとんどである(会社計算規則59条2項では、1年以内の期間であることが求められています。)ことから、ほとんどの会社では、1年に1回定時株主総会を開催しなければなりません。
しかし、特に、取締役会設置会社ではない会社(取締役会非設置会社)の場合、小規模な企業が多いことから、現実に定時株主総会を開催していないところや、定時株主総会を開催していたとしても会社法が定める手続に従って行われていない会社も少なくないと思われます。他方、取締役会設置会社の場合と比べて、その手続は大幅に簡素化されています。
本稿では、取締役会設置会社以外の会社(取締役会非設置会社)を前提に、定時株主総会でやるべきことを説明していきます。
1.定時株主総会の開催時期
前述のとおり、会社法296条1項では、「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。」と定められていますが、何ヶ月以内に開催しなければならないという定めはありません。
ところで、株式会社は、基準日を定めて、基準日において株主名簿に記載等がされている株主に定時株主総会における議決権の行使をさせることや剰余金の配当の受領権を与えることを定めることができ(会社法124条1項)、この基準日を定めている場合には、株主としての権利を行使できる期間を基準日から3か月以内としており(会社法124条2項)、その結果、定時株主総会を事業年度末から3か月以内に開催する会社が多くなっています。もっとも、基準日を設けず、定時株主総会開催時点の株主に議決権の行使や剰余金の配当の受領権を認める場合には、会社法の規定上3か月以内に開催しなければならないという定めはありませんが、概ね3か月以内には開催すべきでしょう。
2.定時株主総会での決議事項の検討
株主総会で決議される事項は多岐にわたりますが、ここでは定時株主総会で決議されることが多い事項を中心に説明していきます。
(1) 計算書類の承認および事業報告の内容の報告
株式会社は、適時に、正確な会計帳簿(仕訳帳、総勘定元帳及び補助簿)を作成した上で(会社法432条1項)、各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければなりません(会社法435条2項)。
この計算書類とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び個別注記表をいいます(会社法435条2項、会社計算規則59条1項)。また、事業報告とは、株式会社の状況に関する重要な事項その他会社計算規則118条から126条で定められている事項をその内容とするものをいいます。
取締役会非設置会社でも、監査役設置会社の場合には、計算書類および事業報告並びにこれらの附属明細書(監査の範囲を会計に関するものに限定している会社(会社法389条1項)では、計算書類およびその附属明細書)について、監査役の監査を受けなければなりません(会社法436条1項)。
その上で、取締役は、計算書類および事業報告を定時株主総会に提出・提供しなければなりません(会社法438条1項4号)。監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定め(会社法389条1項)がある株式会社を含み、会計監査人設置会社を除く。)では、監査役の監査(会社法436条1項)を受けた上で計算書類および事業報告を定時株主総会に提出・提供しなければなりません(会社法438条1項1号)。
取締役会設置会社では、定時株主総会の招集通知に際して、計算書類および事業計画を提供する必要がありますが(会社法437条)、取締役非設置会社ではその必要はありません。
計算書類については、定時株主総会の承認を受けなければなりません(会社法438条2項)。事業報告については、取締役がその内容を定時株主総会に報告しなければなりません(会社法438条3項)。
(2) 剰余金の配当と利益準備金の積立
株式会社は、株主に対し、剰余金の配当をすることができますが(会社法453条)、その際には、株主総会の決議によって、①配当財産の種類および帳簿価額の総額、②株主に対する配当財産の割当てに関する事項、③当該剰余金の配当がその効力を生ずる日を定めなければなりません(会社法454条1項)。また、剰余金の配当を受けることができる株主について、基準日を定めることも一般的です(会社法124条1項)。この株主総会の決議は普通決議で足ります(会社法309条1項)。
剰余金の配当の際に忘れてはならないのは、利益準備金の積立です。剰余金の配当は、その他利益剰余金を原資とすることが多いですが、その場合、会社法445条4項及び会社計算規則22条2項は、剰余金の配当をする場合には、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の額の4分の1に達するまで、その他利益剰余金を原資とする配当額の10分の1を利益準備金に積み立てなければならない旨定めています。
準備金の額の増加については、会社法451条1項、2項において、株主総会の決議により、①減少する剰余金の額、②準備金の額の増加がその効力を生ずる日を定めなければならない旨規定されています。したがって、会社法の文言上は、剰余金の配当決議と別に、利益準備金の積立の決議を行わなければならないことになります。ただし、会社法445条4項及び会社計算規則22条2項で求められる利益準備金の強制積立額を計上する場合には、剰余金の配当決議があれば、別途利益準備金の積立の決議を行う必要はないと解釈されています。しかし、利益準備金の強制積立額を超える額を計上する場合には、利益準備金の積立の決議が必要になります。今後、利益準備金の強制積立をする必要がないように、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の額の4分の1に達するまで一気に利益準備金を積み立てておこうとする場合には、株主総会の決議を得ることを忘れないようにしないといけません。
(3) 取締役・監査役の選任
取締役および監査役は、株主総会の決議によって選任されます(会社法329条1項)。
取締役の任期は、原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなりますが、定款または株主総会の決議によって、その任期を短縮することができます(会社法332条1項)。任期を短縮する場合には、定款で定めるのが一般的です。他方、監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなります(会社法336条1項)。取締役も監査役も、譲渡制限株式を発行していない公開会社でない株式会社では、定款によって、任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができます(会社法332条2項、336条2項)。
いずれにしても、任期が満了すれば役員ではなくなるため、同じ者が引き続き行う場合でも、株主総会の決議で選任する必要があります。この選任の決議は、普通決議で足ります(会社法309条1項)。
(4) 補欠の役員の選任
会社法329条3項では、役員が欠けた場合または会社法若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができる旨定められています。
役員とは、取締役・会計参与・監査役のことをいいますが、取締役会非設置会社の場合、取締役会設置会社のように、取締役が3名以上でなければならないとする規定(会社法331条5項)はありません。しかし、取締役が1名のみの会社の場合、補欠の取締役を選任しておくことが重要です。取締役が1名のみの状態で、その取締役が死亡等により欠員した場合には、業務を執行する者がいなくなってしまいます。そこで、新たな取締役を選任する必要がありますが、取締役の選任には株主総会の決議が必要であり(会社法329条1項)、株主総会を開催するには株主総会の招集が必要です(会社法296条1項2項)。株主総会の招集をすることができるのは原則として取締役ですが、その取締役がいないと招集ができなくなってしまいます。その他の方法として、株主全員の同意がある場合には招集手続を省略できたり(会社法300条)、開催自体を省略できたりしますが(会社法319条)、株主全員の同意が得られない場合には、裁判所に仮取締役の選任を申し立てる必要があります。しかし、仮取締役選任の申立ては、時間がかかるだけでなく、仮取締役候補者の推薦をしても認められない場合があり、その場合は、裁判所の方で弁護士を選任することになりますが、その報酬を用意する必要も出てきてしまいます。このような自体を避けるためにも、取締役が1人の会社では、補欠の役員を選任しておくべきです。
補欠の役員を選任する場合には、①当該候補者が補欠の会社役員である旨、②当該候補者を補欠の社外取締役として選任するときは、その旨、③当該候補者を補欠の社外監査役として選任するときは、その旨、④当該候補者を1人または2人以上の特定の会社役員の補欠の会社役員として選任するときは、その旨及び当該特定の会社役員の氏名、⑤同一の会社役員につき2人以上の補欠の会社役員を選任するときは、当該補欠の会社役員相互間の優先順位を決定しなければなりません(会社法施行規則96条2項)。
この決議が効力を有する期間は、定款に別段の定めがある場合を除き、当該決議後最初に開催する定時株主総会の開始の時までとなります(会社法施行規則96条3項)。したがって、定款に別段の定めを置かない限り、定時株主総会で毎回補欠役員を選任する必要が出てしまいますので、定款に有効期間の伸長の定めを置くことを検討した方が良いと思われます。
(5) 役員の報酬等
取締役の報酬その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(これを「報酬等」といいます。)については、定款に定めがなければ、株主総会の決議によって定めなければなりません(会社法361条1項)。これは普通決議になります(会社法309条1項)。株式会社とは、いわば財産はあるが稼ぐ能力がない者(株主)と財産はないが稼ぐ能力のある者(取締役)とのマッチングの仕組みであり、所有と経営の分離が生じることになります。取締役は株主から、株主にとっての価値を最大化するために委任されている(会社法330条)にもかかわらず、取締役が自己の利益のために会社の財産を使うことによって、株主の利益を害するおそれが生じますが、これをエージェンシー問題といいます。このエージェンシー問題によって株主に生じるコスト(エージェンシー・コスト)を軽減するため、すなわち取締役の報酬等については、お手盛りを防止するために、株主総会の決議が求められています。取締役の報酬等を定款で定めている会社は少ないと思われ、多くは株主総会の決議で定めていると思われます。
取締役の報酬等は、確定報酬額については、その額を定めます(会社法361条1項1号)。取締役が複数名いる会社では、取締役個人の報酬額が具体的に明らかになることを嫌って、取締役全員の報酬総額の上限のみを定め、取締役個人の具体的報酬額はその上限の範囲内で取締役に一任するということをしており、取締役会設置会社の事案ですが、最高裁昭和60年3月26日第三小法廷判決も脱法行為にあたるとはいえない旨判示しています。しかも、一度株主総会で上限を定めれば、翌年以降改めて株主総会の決議を行うことは不要とされています。その他、会社法は、確定していない報酬額(会社法361条1項2号)、募集株式や新株予約権による報酬(会社法361条1項3号4号5号)、それ以外の金銭でない報酬(会社法361条1項6号)についても規定していますが、本稿では割愛します。
監査役の報酬等も、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければなりません(会社法387条1項)。この規定は、取締役のお手盛り防止の趣旨と異なり、監査役の報酬等が取締役のみで決められれば、監査役の独立性が確保できないことから、株主が決定することにしています。
監査役が2人以上ある場合において、報酬等の上限を定めて、その範囲内で監査役の協議によって定めることもできます(会社法387条2項)。監査役の独立性の確保の観点から、監査役の報酬額を取締役に一任することはできません。
(6) 定款の変更
定款の変更もしばしば行われますが、定款の変更を行う場合には、株主総会の特別決議が必要です(会社法466条、309条2項11号)。
3.定時株主総会の招集手続
(1) 株主総会の招集の決定
定時株主総会を招集するには、①株主総会の日時及び場所、②株主総会の目的である事項(議題)、③書面投票制度を採用するときはその旨、④電子投票制度を採用するときはその旨、⑤会社法施行規則63条で定める事項を決定する必要があります(会社法298条1項)。そこで、取締役会非設置会社では、これらの内容について、取締役1名の場合には、自ら決定し、取締役が2名以上いる場合には、過半数をもって決定します(会社法348条2項)。
(2) 招集の時期および方法
株主総会を招集するには、譲渡制限株式を発行しており、かつ書面投票制度または電子投票制度を採用していない会社は1週間前までに、それ以外の会社は2週間前までに、株主に対して招集の通知を発する必要があります(会社法299条1項)。書面投票制度または電子投票制度を採用した会社では、この招集の通知は書面で行う必要があり(会社法299条2項1号)、この通知には、取締役が決定した事項を記載する必要があります(会社法299条4項)が、多くの取締役会非設置会社では、書面投票制度または電子投票制度を採用していないため、招集通知は書面であることを求められておらず、口頭でもよいことになります。招集通知を行ったことを証するため、招集通知は書面の方が望ましいですが、書面で行ったとしても会社法298条1項で定める事項の全てを記載する必要はありません。しかし、株主総会を招集する以上、株主総会の日時および場所は必ず記載しなければなりません。
4.株主総会の開催
株主総会の議事についての説明は、本稿では割愛します。ここでは重要な点のみを記載します。
(1) 計算書類等の定時株主総会への提出等
取締役は、計算書類および事業報告を定時株主総会に提出または提供しなければなりません(会社法438条1項4号)。監査役設置会社の場合には、監査を受けた上で、計算書類および事業報告を定時株主総会に提出または提供しなければなりません(会社法438条1項1号)。
そして、計算書類については定時株主総会の承認を受ける必要があり(会社法438条2項)、事業報告については取締役がその内容を定時株主総会に報告する必要があります(会社法438条3項)。
(2) 取締役の報酬等
取締役の報酬等に関する事項を定め、またはこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければなりません(会社法361条4項)。
なお、監査役の報酬等については、このような定めはありませんが、監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べることができます(会社法387条3項)。
5.株主総会議事録の作成
株主総会の議事については、会社法施行規則72条の定めに従って、株主総会議事録を作成しなければなりません(会社法318条1項)。
6.登記手続
取締役・監査役の選任、定款の変更などにより、登記事項(会社法911条3項)に変更が生じたときは、2週間以内に、会社の本店の所在地において変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)。変更の登記の懈怠に対しては過料の制裁が科される可能性があります(会社法976条1号)。
7.決算公告
株式会社は、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表および損益計算書)を公告しなければなりません(会社法440条1項)。決算公告の懈怠に対しては過料の制裁が科される可能性があります(会社法976条2号)。
公告の方法としては、①官報に掲載する方法、②時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法、③電子公告のいずれかを定款で定めることができ(会社法939条1項)、定款で定めない場合には、①官報に掲載する方法となります(会社法939条4項)。公告方法を、①官報に掲載する方法、または②時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法に定めた場合には、貸借対照表の要旨を公告することで足ります(会社法440条2項)。そして、この場合には、会社計算規則147条の定めに従い、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後5年を経過する日までの間、継続してインターネット上で電子公告をすることで代えることができます(会社法440条3項)。これにより官報や日刊新聞紙への掲載費用を節約することができます。
8.株主総会議事録と計算書類等の備置き
株主総会議事録については、本店に10年間、支店に写しを5年間備え置き(会社法318条2項、3項)、株主および債権者の閲覧または謄写の請求に供さなければなりません(会社法318条4項)。
また、計算書類および事業報告並びにこれらの附属明細書(監査報告を含む)については、定時株主総会の日の2週間前の日から本店に5年間、支店に写しを3年間備え置き(会社法442条1項1号、2項1号)、株主および債権者の閲覧等に供さなければなりません(会社法442条3項)。
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