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代表取締役の解職および取締役の解任の法的手続と留意点

代表取締役の不祥事や経営陣の内紛によって、代表取締役の解職及び取締役の解任に至ることがあります。代表取締役の解職は取締役会決議で、取締役の解任は株主総会決議で行われますので、まずは、代表取締役の解職が行われるのが一般的ですが、適法に代表取締役を解職するには、注意しなければならない点があります。

以下では、中小企業で比較的多い機関設計である取締役会設置会社で監査役設置会社である場合を念頭に、代表取締役を解職する場合の法的な注意点を説明します。

解職と解任の違い

解職とは、取締役会決議によって代表取締役を代表権のない取締役(平取締役)にすることであり、解職をしてもなお取締役としての地位は残ります。これに対して、解任とは、株主総会決議によって取締役の地位からも退かせることをいいます。

以下でも、「解職」と「解任」は区別して説明します。

代表取締役の解職のための法的手続と留意点

前述のとおり、取締役会設置会社では、取締役会決議で代表取締役を解職することができます(会社法362条2項3号)。以下では、中小企業を念頭に代表取締役の解職のための法的手続と留意点を説明していきます。

(1) 株主構成の確認と大株主への根回し

解職対象となる代表取締役が大株主である場合には、解職に対する報復として、解職に賛成した取締役が株主総会決議で解任されることになりかねません。当該代表取締役が議決権の過半数を有する場合には、その危険性は極めて高くなります。

他方、当該代表取締役以外の人が大株主である場合や、過半数に至らない大株主が分散している場合には、その大株主に代表取締役の解職をする予定であることを説明し、賛同を得ておくことも重要な場合があります。代表取締役の解職後、取締役を解任する場合にはなおさらです。ただし、代表取締役寄りの株主に事情を説明してしまうと、解職予定であることが代表取締役に漏れてしまうので、誰に説明するかは慎重に検討しなければなりません。

(2) 解職理由の確認

代表取締役の解職をすること自体、法的には理由は必要ありませんが、正当な理由なくして解職し、平取締役に降格させた場合には、会社法339条2項の類推適用により、解職した代表取締役から会社に対して損害賠償請求が認められるという見解があります。また、解職に正当な理由があれば、取締役会開催時に当該代表取締役に対して辞任をせまる材料にもなります。

解職に正当な理由があることを確認し、その証拠をしっかり準備しておくことが重要です。

(3) 取締役会の招集権者の確認

代表取締役を解職するには取締役会決議が必要ですから、まずは、取締役会の招集手続が行われる必要があります。そこで問題となるのは、取締役会の招集権者の問題です。

ここで会社法366条を確認してみましょう。

会社法366条

① 取締役会は、各取締役が招集する。ただし、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集する。

② 前項ただし書に規定する場合には、同項ただし書の規定により定められた取締役(以下、「招集権者」という。)以外の取締役は、招集権者に対し、取締役会の目的である事項を示して、取締役会の招集を請求することができる。

③ 前項の規定による請求があった日から五日以内に、その請求があった日から二週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合には、その請求をした取締役は、取締役会を招集することができる。

つまり、原則としては、取締役であれば誰でも取締役会を招集することができます。ただし、定款で招集権者を限定することができ、定款で招集権者を代表取締役に限定している会社が多く存在しますので、まずは、定款で招集権者が代表取締役に限定されているかどうかを確認する必要があります。

もし、定款で招集権者を代表取締役に限定していた場合には、他の取締役は取締役会を招集することができません。そこで、会社法366条2項に基づき、招集権者である代表取締役に対して、取締役会の招集請求をするかどうかを検討することになります。取締役会の招集請求を行った場合には、会社法366条3項に基づき、招集請求があった日から5日以内に、代表取締役が取締役会の招集をしない場合には、その請求した取締役が自ら取締役会を招集することができることになります。

なお、取締役全員の同意があれば招集手続を経ることなく取締役会を開催できます(会社法368条2項)。

(4) 解職を行うタイミングの検討

名古屋高裁平成12年1月19日判決では、招集通知に議題として記載されていない代表取締役の解職についても取締役会で決議できる旨判示しています。つまり、招集通知に代表取締役の解職の議題を記載せず、取締役会開催時に緊急動議として解職決議を行うことも可能です。

以上の取締役会の招集権者と名古屋高裁判決を確認した上で、代表取締役の解職を行うタイミングを検討することになります。

ここで注意しなければならないのは、解職対象の代表取締役に事前に解職決議をする予定であることが知られてしまうと、他の取締役に対して解職決議に賛成しないように働きかけて多数派工作を図られる危険性があります。

解職対象の代表取締役に事前に気付かれずに解職決議を行うためには、定例の取締役会において緊急動議を行い、解職決議を行うというのが一番良いように思われます。

しかし、定例の取締役会が行われていない会社で、いつ代表取締役が取締役会を招集するか分からない状況で、早期に代表取締役を解職したい場合には、前記の招集手続の問題が生じます。

平取締役が自ら取締役会を招集できる場合には、取締役会の招集通知に解職の議題を記載せずに取締役会の招集を行うという方法もありますが、平取締役が取締役会を招集したことがない場合には、代表取締役から不自然であると察知されるかもしれません。また、招集権者が代表取締役に限定されている場合には、平取締役が招集請求をすることになりますが、これも招集通知に解職の議題を記載しない場合でも、平取締役が招集請求をしたことがなければ、代表取締役に察知される可能性があります。

解職のタイミングをいつにするかは、各会社の個々の事情に応じて慎重に検討していく必要があります。

(5) 取締役会の運営と決議

取締役会の議事をどのように行うかについては、法律上、特段の規定はありません。ただし、定款等では、代表取締役が取締役会の議長となる旨を定めているのが一般的です。しかし、解職対象の代表取締役は、会社法369条2項所定の「特別の利害関係を有する取締役」に該当し(最高裁昭和44年3月28日第二小法廷判決)、議長となることも、意見陳述を行うこともできません。また、他の取締役から退席を要求された場合には、代表取締役は退席しなければなりません。

そこで、定例の取締役会で緊急動議を行い、代表取締役の解職を議題として審議する場合には、代表取締役は議長を務めることができず、新たな議長を選任する必要があります。定款等に規定があればそれに従い、定めがなければ取締役の互選で議長を決めます。

新たな議長が選任されたら、通常、代表取締役に退席してもらいます。代表取締役に退席してもらったら、代表取締役の解職について審議し決議をすることになります。

取締役会の決議は、定款に要件を加重していなければ、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数の賛成をもって可決されます。この際、解職対象の代表取締役は定足数に含まれず、議決に参加することもできません。

(6) 新たな代表取締役の選定

代表取締役の解職決議がなされ、代表取締役がいなくなったら、1人は代表取締役を選定する必要があるので(会社法362条3項)、新たな代表取締役の選定手続を行います(会社法362条2項3号)。

解職された代表取締役も平取締役であり、新たな代表取締役の選定決議には参加できますので、退席を命じていた場合には、取締役会の審議に参加させる必要があります。また、新たに選定予定の代表取締役候補者は、会社法369条2項所定の「特別の利害関係を有する取締役」に該当しませんので、議決に参加することができます。

(7) 解職予定の代表取締役が辞任する場合

解職予定の代表取締役が、解職決議をすると知ったとき、自ら代表取締役の地位を辞することも少なくありません。また、代表取締役の辞任と同時に取締役としての地位も辞することもよくあります。

この場合には、代表取締役の辞任届と取締役の辞任届の両方を作成してもらうとよいでしょう。

なお、取締役会設置会社は、取締役の員数が3人以上でなければならないため(会社法331条5項)、当該取締役が辞任することにより員数を満たさなくなってしまう場合は、当該取締役は辞任後もなお取締役の権利義務を有します。当該取締役の辞任の登記を申請するには、後述する株主総会にて後任の取締役を選任する必要があります。

(8) 取締役会議事録について

取締役会議事録については、会社法施行規則101条で定める内容に従って作成した上で、出席した取締役及び監査役の署名又は記名押印が必要です(会社法369条3項)。

取締役会議事録の作成は、会社法上の義務であるばかりでなく、後述する登記申請において必要になります。

(9) 登記について

代表取締役の解職があったときから2週間以内に代表取締役の氏名及び住所についての変更登記をする必要があります(会社法915条1項、911条3項14号)。

代表取締役の氏名及び住所についての変更登記申請書類としては、取締役会議事録、新しい代表取締役の就任承諾書(取締役会議事録の記載を援用することにより、就任承諾書の添付を省略することも可能)、新しい代表取締役の印鑑証明書等が必要になります。

前記のとおり、取締役会議事録には出席した取締役及び監査役の署名又は記名押印が必要ですが、解職された代表取締役が取締役会議事録への署名又は記名押印を拒否した場合であっても、①やむを得ない事由により署名又は記名押印できなかったことを証するにたる書面を添付しその他の出席取締役の署名又は記名押印がある場合、②出席取締役の過半数(定款で決議要件を加重された場合にはその加重された数以上)の署名又は記名押印がある場合には、登記申請が受理される可能性があります。

また、代表取締役の選定決議の際、解職された代表取締役が会社届出印を押印した場合には、出席した取締役等は認印でも構いませんが、会社届出印がない場合には、出席取締役等全員がそれぞれ個人の実印で押印し、かつそれぞれ印鑑証明書を添付する必要があります。解職された代表取締役が会社届出印を返さない場合には、新たな会社届出印を作成する必要もあります。

なお、代表取締役が辞任した場合には、辞任届も必要となります。代表取締役の辞任の場合の押印は、原則として実印でなければならず、印鑑証明書の添付も必要ですが、会社届出印にて押印した場合は印鑑証明書の添付も不要です。

取締役の解任のための法的手続と留意点

代表取締役を解職して、当該取締役が平取締役となった後、さらに任期途中で当該取締役を解任したい場合には、株主総会決議が必要となります。以下では、新たな代表取締役が選定されていることを前提に、株主総会決議を中心に説明していきます。

(1) 取締役の任期の確認と解任の必要性の検討

当然、取締役の任期は代表取締役の解職を検討する前に確認しておく必要がありますが、説明の都合上ここで説明することとします。

取締役の任期は、原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています(会社法332条1項本文)。

株式の譲渡制限が付いている会社(公開会社でない株式会社)では、定款で任期を選任後10年以内とすることができます(会社法332条2項)。

解職対象の代表取締役の任期満了が近い場合、任期満了となれば、再任されない限り取締役の地位を失うことになります。

取締役の解任も、法的には理由は必要ありませんが(会社法339条1項)、正当な理由なくして解任された取締役は、会社法339条2項に基づき、損害賠償請求をすることができますので、解任するかどうかは、株主総会で可決する見通しのほか、解任理由の正当性や損害賠償を受けるリスクを踏まえて検討する必要があります。

(2) 株主総会の招集のための取締役会決議

取締役会設置会社では、株主総会を招集するには取締役会決議が必要です(会社法298条4項)。取締役会決議をするには取締役会の招集手続が必要ですが、新たな代表取締役の下では、取締役会の招集に問題は生じないでしょう。

株主総会の招集手続では、株主総会の会議の目的である事項(議題)を定める必要があり(会社法298条1項2号)、招集通知に記載された議題以外の事項については決議できません(会社法309条5項)。取締役の解任を議題で定めることのほか、取締役を解任することによって、取締役の数が3名未満となる場合(定款で取締役の数を4名以上としている場合にはその数を下回る数となる場合)には、新たな取締役を選任する議題を定める必要があります(会社法331条5項)。

なお、解任予定の取締役に対しても取締役会の招集を行う必要があります。

(3) 株主総会決議

取締役の解任の株主総会決議は、いわゆる普通決議で足り、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって可決されます(会社法309条1項)。

解任予定の取締役が同時に株主である場合であっても、法律上は、特別な利害関係を有する株主が議決権を行使することは排除されておらず、議決権を行使することができます。

(4) 株主総会議事録について

株主総会議事録については、会社法施行規則72条で定める内容に従って作成される必要がありますが、取締役会議事録と異なり、出席した取締役及び監査役の署名又は記名押印は必要ありません。ただし、株主総会議事録の真正の担保の為、実務上、署名又は記名押印をしておくのが望ましいと考えられます。

(5) 登記について

取締役の解任及び新たな取締役の選任があったときから、2週間以内に取締役の氏名についての変更登記をする必要があります(会社法915条1項、911条3項13号)。

取締役の氏名についての変更登記申請書類としては、株主総会議事録、株主リスト、新しい取締役の就任承諾書(株主総会議事録の記載を援用することにより、就任承諾書の添付を省略することも可能)、新しい取締役の印鑑証明書又は本人確認証明書等が必要になります。

なお、取締役が辞任した場合には、辞任届も必要となります。代表取締役ではない取締役の辞任の場合の押印は認印でも可能ですが、後日の争いを避けるため、署名し、実印での押印がなされ、かつ、印鑑証明書を取得しておくのが望ましいと考えられます。

代表取締役の解職・取締役の解任後に残る問題

(1) 役員退職慰労金について

辞任または解任された取締役から役員退職慰労金の支払いを要求されることもあります。しかし、役員退職慰労金も含め、取締役の報酬その他の財産上の利益を支給するには、定款に定めていない限り、株主総会決議が必要です(会社法361条)。したがって、通常であれば、取締役からの退職慰労金支払請求権は発生せず、会社に退職慰労金の支払義務はないということになります。

ただし、株主総会において、退職慰労金規定に従い、金額、時期、方法等について取締役会に一任するとの決議がなされ、退職慰労金規定が具体的に定められており、特に減額や不支給についての定めは置かれておらず、退職金が自動的に算定され、取締役会には増減の裁量の余地がない場合には、退職慰労金支払請求権が発生するとした裁判例もあります。

(2) 解任された取締役が株式を保有している場合

株主は、その有する株式を譲渡することができるのが原則であり(株式譲渡自由の原則。会社法127条)、誰が株主となってもおかしくありません。ただし、定款によって株式に譲渡制限を付けることができ(会社法107条1項1号)、多くの中小企業では定款による株式の譲渡制限が定められております。

株式の譲渡制限が付いている会社では、解任された取締役が会社の株式を保有している場合、引き続き株主として会社に関わることになってしまいます。これが新しい代表取締役の下での会社にとって好ましいことではないと考える場合、解任された取締役との間で、株式の買取交渉をする場合があります。

ここで、株式の売買価格について折り合わないことがよくあります。なぜなら、市場性がなく、会社の支配権を得るに足りない少数株式の場合、規範的価値(当該株式が規範的に有すべき価値)と交換価値(当該株式が現実に取引されたときにつくであろう価格)が大きく乖離し、会社からすれば、市場性がないため株価は低いものであろうと考える一方、解任された取締役からすれば、会社の収益性からすれば、株価は相当高いものであろうと考えがちだからです。

解任された取締役としては、譲渡制限株式の譲渡承認請求を行い、これを会社が拒否することによって発生する株式買取請求権を行使し、裁判所に売買価格を決定してもらうことで、より多くの投下資本の回収を図ろうとする手段があり得ます。ただし、この手段を使う場合も必ずしも多くないので、そのリスクを踏まえた上で売買価格の交渉をしていく必要があります。

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