中小企業のM&Aの手法と各手続のメリット・デメリット
中小企業のM&Aの手続の選択肢としては、①株式譲渡、②事業譲渡、③会社分割(吸収分割・新設分割)、④合併などが考えられます。
このうち、特に利用されるのが、①株式譲渡と②事業譲渡です。本稿では、①株式譲渡と②事業譲渡の概要を、各手続のメリット・デメリットとともに説明していきます。
株式譲渡について
中小企業のM&Aの手続の中で、最も一般的なものが株式譲渡です。
株式譲渡は、M&Aの対象会社の株式を、現株主から新株主に譲渡する手法です。
株式譲渡の契約当事者は、対象会社の現株主と買主であり、対象会社は契約当事者にはなりません。ただし、中小企業のM&Aでは、基本的には100%の株式の譲渡がなされるため、対象会社の現株主は、対象会社の発行済株式の全部か大部分を有し、対象会社の支配権を有していること、また、対象会社の内情を完全に把握していることを前提に取引交渉がなされます。
株式譲渡は、対象会社の株主が変わるだけなので、原則として対象会社の中身に変動が生じず、比較的簡素な手続で済みます。対象会社の個々の資産や負債はもちろん、取引先との契約、従業員との雇用契約、許認可等も原則としてそのまま維持されます。もっとも、取引先との契約では、経営権の移動があった場合に契約が解除できる旨定めるなどの「チェンジオブコントロール条項」が定められていることがあるので、注意が必要です。買手にとっては、経営権取得後も経営管理が比較的容易であるため、M&A後の統合プロセスであるPMI(Post Merger Integration)が進めやすいと考えられます。
売手にとっては、株式譲渡益が生じた場合の課税が分離課税となるため、税率が低くなるというメリットがあります。
他方、買手にとっては、対象会社の簿外債務や紛争による損害賠償等の債務その他将来的に発生しうる偶発債務もそのまま引き継ぐことになるため、高い買い物になってしまうリスクがあるというデメリットがあります。
このようなデメリットがあるとしても、一般的にはメリットが大きいため、まずは株式譲渡の手法を検討するのが通常です。株式譲渡では支障がある場合に、別の方法を検討していくことになります。
事業譲渡について
事業譲渡は、対象会社が有する事業(資産、負債、知的財産権等を含む)を買手に譲渡する手法です。事業譲渡の契約当事者は、対象会社と買主であり、対象会社の現株主は契約当事者にはなりません。なお、譲渡対象となる事業を有しているのが法人ではなく個人の場合には、株式譲渡や会社分割が使えないため、個人事業を引き継ぐ場合には、事業譲渡が唯一の手段となります。
買主にとっては、購入する資産や承継する契約を限定できるため、簿外債務や偶発債務を引き継がないようにすることができるのが最大のメリットです。売手にとっては、主力の事業を残し、不採算部門等売却したい事業だけを切り分けて譲渡できます。また、会社分割では債権者保護手続などが必要であるのに対し、事業譲渡では不要であるという点で、会社法上の手続の負担が軽くなっています。
しかし、事業譲渡では、資産、負債、取引先との契約、従業員との雇用契約や許認可を個別に移転させるため、その切り替え作業が必要であり、煩雑になります。特に取引先との契約や許認可は、引き継げない可能性も生じ、許認可は新規に取得する必要が出てきます。このように、株式譲渡に比べて、切り替え作業が煩雑であるというのがデメリットです。
また、事業譲渡は、原則として株主総会の特別決議が必要であり、反対株主の株式買取請求権が発生します。株式買取請求権の行使により、買取資金の拠出をしたくない場合には注意が必要です。
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