非上場会社における株主との合意による自己株式の有償取得
現在の会社法は平成17年7月26日に成立し、平成18年5月1日に施行されましたが、その前は、商法が会社に関する規制を定めていました。平成6年の商法改正前までは、自己株式の有償取得は原則として禁止されていました。自己株式の有償取得を認めると、①出資の払戻となり、会社債権者を害する、②特定の株主から株式を買い取ることは、価格によっては株主間の不公平を生じさせる、③現経営者が会社支配権を維持する手段に利用される、④相場操縦やインサイダー取引に利用されるおそれがある、という理由からです。しかし、その後、平成6年改正、平成9年改正で例外的に自己株式を取得できる場合が拡大され、さらに、平成13年6月改正では、自己株式の取得を認めることにより資本効率を高め、事業再編を容易にするという産業界の要請から政策的判断が加わって自己株式の有償取得は原則自由となりました。
会社法は、過去の商法改正を引き継いで、さらに整理されて制定されましたが、株主間の公平を確保するために、なお複雑な規制を定めています。
会社が自己株式を取得できる場合はさまざまありますが、本稿では、非上場会社を前提に、自己株式の有償取得の主要なケースである「株主との合意による取得」を説明します。
株主との合意による自己株式の有償取得の類型
株主との合意による自己株式の有償取得には、①「ミニ公開買付け」と言われる方法と、②特定の株主から取得する方法があります。なお、会社法には③上場会社の場合の特則が定められておりますが、本稿では非上場会社を前提にしておりますので割愛します。
①ミニ公開買付け
会社法は、いわゆる「ミニ公開買付け」と呼ばれる方法を自己株式の取得の原則形態として規定しています。これは金融商品取引法における自己の上場株券等の公開買付けの手続(金融商品取引法27条の22の2)の簡略版とも言える制度であることからこう呼ばれています。
「ミニ公開買付け」の手続としては、まず、あらかじめ、株主総会の普通決議によって、①取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)、②株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く)の内容及びその総額、③株式を取得することができる期間(ただし、1年を超えることができない)を定める必要があります(会社法156条1項)。
次に、株式会社が株式を取得しようとするときは、その都度、①取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)、②株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額またはこれらの算定方法、③株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額、④株式譲渡しの申込みの期日、を取締役会設置会社の場合には取締役会で、取締役会設置会社でない場合には定款で別段の定めがある場合を除き取締役の過半数で決定します(会社法157条1項2項、348条2項)。この株式の取得の条件は、この決定毎に均等に定める必要があります(会社法157条3項)。
そして、この決定後、株式会社は、株主(種類株式発行会社にあっては、取得する株式の種類の種類株主)に対して、上記決定事項を通知しなければなりません(会社法158条1項)。ただし、譲渡制限付株式を発行していない公開会社の場合には、通知は公告をもってこれに代えることができます(会社法158条2項)。
この通知を受けた株主は、株式会社に対し、譲渡する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにして申込みをすることができます(会社法159条1項)。これによって定められた株式譲渡しの申込みの期日をもって譲渡が成立します(会社法159条2項本文)。
ただし、譲渡の申込みのあった株式数が、株式会社が決定した取得する株式の数を超えたときは、株式会社は、申込みがあった株式数に応じて按分比例で株式を取得することになります(会社法159条2項但書)。
②特定の株主からの取得
株式会社が上記のミニ公開買付けの方法によらず、特定の株主から自己株式を有償取得しようとする場合には、その特定の株主の氏名を明らかにした上で、その株主に対して会社法158条1項の規定により通知することを含めて、株主総会の特別決議を行わなければなりません(会社法160条1項、309条2項2号)。この特定の株主は、株主総会で議決権を行使することはできません(会社法160条4項)。
さらに、株式会社は、株主総会の招集通知を発送しなければならない期間までに、株主(種類株式発行会社にあっては、取得する株式の種類の種類株主)に対して、原則として株主総会の日の5日前までに(招集通知発送期間が2週間前より短い場合には原則として3日前までに)、特定の株主に自己をも加えたものを株主総会の議案とすることを請求することができる旨を通知しなければなりません(会社法160条2項3項、会社法施行規則28条、29条)。この別の株主が自分の保有する株式も一緒に売却できるように参加できる権利はタグアロング権(Tag Along Right)と言われます。
このようにミニ公開買付の方法によらず、特定の株主からの取得の場合には、極めて厳格な規制を設けていますが、これは株式の売却機会の平等を図り株主間の公平性を確保するためです。
このような厳格な規制に対しては、①市場価格のある株式を市場価格以下の価格で取得する場合(会社法161条)、②相続人等から取得する場合(会社法162条)、③子会社から取得する場合(会社法163条)には、例外があります。また、定款でタグアロング権を排除することはできますが、この場合の定款変更には、株主全員の同意が必要になります(会社法164条)。
取得できる自己株式の上限
自己株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額は、自己株式の取得の効力発生日における分配可能額を超えてはならないという規制があります(会社法461条1項2号3号)。
この自己株式の取得の効力発生日における分配可能額の算定方法は、会社法461条2項に定めがあります。
違法な自己株式の取得に対する効果
違法な自己株式の取得のケースとしては、①違法な手続により自己株式の取得があった場合と、②分配可能額を超過する自己株式の取得があった場合に分けられます。
①違法な手続により自己株式の取得があった場合
違法な手続により自己株式の取得があった場合、自己株式の取得は無効ではある(最高裁昭和43年9月5日第一小法廷判決)ものの、手続違反について相手方(自己株式の譲渡人)が善意であった(知らなかった)場合には、相手方との関係で有効であるとする見解が一般的です。また、自己株式の取得の無効は、相手方から主張することはできないとされています(最高裁平成5年7月15日第一小法廷判決)。そして、違法な自己株式の取得について、取締役等は、会社に対し、任務懈怠により損害賠償責任を負います(会社法423条1項)。この場合の損害賠償額については、①自己株式の取得価額からその後自己株式を売却処分したときの価格を控除した金額とする裁判例(東京高裁平成6年8月29日判決)、②自己株式の取得価額と取得時点における自己株式の時価との差額とする裁判例(大阪地裁平成15年3月5日判決)があります。
②分配可能額を超過する自己株式の取得があった場合
分配可能額を超過する自己株式の取得があった場合には、金銭等の交付を受けた自己株式の譲渡人、職務を行った取締役等、株主総会で説明を行った取締役等、取締役会において賛成した取締役が、会社に対し、連帯して、交付された金銭等の帳簿価格に相当する金銭を支払う義務を負います(会社法462条)。また、自己株式の取得の効力発生日において分配可能額を超えていなかったとしても、効力発生日の属する事業年度末に係る計算書類において、分配可能額がマイナスになったときは、その職務を行った業務執行者は、無過失を証明しない限り、会社に対し、連帯して、その欠損の額を支払う義務を負います(会社法465条1項2号3号、2項)。
取得後の自己株式の取り扱い
会社が取得した自己株式については、議決権がありません(会社法308条2項)。また、議決権以外の共益権も行使することができず、自益権についても剰余金の配当請求権(会社法453条)、残余財産分配請求権(504条3項)、募集株式を割り当てる権利(会社法202条2項)、新株予約権(会社法241条2項)も認められません。
自己株式の消却
株式会社は、消却する自己株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を、取締役会設置会社の場合には取締役会で、取締役会設置会社でない場合には定款で別段の定めがある場合を除き取締役の過半数で決定することで自己株式を消却することができます(会社法178条)。
自己株式の消却によって発行可能株式総数(会社法37条)は減少せず、発行済株式総数だけが減少するため、消却により減少した発行済株式数だけ発行できる株式数が増加することになります。
自己株式の処分
自己株式を処分する場合には、「募集株式の発行等」の制度(会社法199条以下)によって、新株の発行とほぼ同様の手続によって処理されます。どちらも、引受人を募集して行い、既存株主に与える影響が同じであるため、共通の規律をしています。